古い録音だから悪いのは承知してるからいいんです、時代ですからね〜 ものづくりのクォリティはぶくぶくと太っているから豊かなものだとはいいえない。

戦火を生き抜いた男たちの饗宴。ここに登場する演奏家たちは何れもナチスから痛い目にあった。

GB EMI ASD2582 ヘルベルト・フォン・カラヤン ベートーヴェン・三重協奏曲
リヒテル、オイストラフ、ロストロポーヴィチら東側の演奏家とカラヤン指揮ベルリン・フィルの共演は、その戦争の終わりを宣言するようなセッションだった。前評判も良かった、レコードの発売は期待された。そして発売されたレコードは歌謡曲並みに売れる異例の現象と成った。今ではこの三重奏の大名盤としてあげられる。しかしレコーディングの現場は惨憺たる状況だった。

リヒテルとオイストラフの意見が合わない。それが演奏上の相違なら歓迎だったが。リヒテルとカラヤンもチャイコフスキー以来そりが合わなかった。これも、どちらかが我慢できればワイセンベルクではなくリヒテル、カラヤンのコンチェルトがたくさんリリースされただろう。彼らをつなぎとどめたのはロストロポーヴィチの功績と褒められている。でも、これも腹の中はどうだったやら。

GB EMI HQM1224 シゲティ&ワルター ベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲/ベルリオーズ・夢とカプリッチョ
シゲティ、ワルターのベートーヴェンは戦争前の録音ですが、その内容は充実している。古い録音だから音が悪いのは『いいんです。時代ですからね〜』とはなから仕方ないと鼻で笑った女には真剣な仕事はわからない。

ワルターの音楽はこの頃が絶頂期といえる。腕前としては戦後も変わらないけど、ナチスに脅され娘を殺され、尻に火が付いていた状況だから演奏会の時間だけが恐怖から守られていた状況だったのだろう。このレコードには危機感を感じながらも出来る限り演奏会を成功させて戦争に苦しむ聴衆の心を開放させてやりたいと使命感に支えられている。

艱難辛苦を乗り越えて。ワルター、シゲティ、タックウェル、マリナー、バレンボイム、メータ、ペイエ、ブルゴス、オイストラフ、リヒテル、ロストロポーヴィチ、カラヤン … 花咲ける饗宴！
圧倒される力強さと真剣さ、音楽だけが精神の支えだった。